本来、酒場はくつろいだり、楽しくなる場であって、緊張したり、自分のマナーはこれでよいのかビクビクする場ではないはずだが……文人たちが飲み歩いた昭和から、時代も平成、令和へと変遷していることだし、ここらで時代に即した所作やふるまいが知りたい。
「シーガーディアンⅡ」(神奈川県・横浜)
手袋を外しながら林センパイがやってきた。ずいぶん元気なお声ですね?
「あなた、バーでのふるまいが知りたいっておっしゃったでしょう? バーでの粋なふるまいっていうのはね、まず店への入り方、それに尽きるんですよ。挨拶も抜きに店へヌボーッと入ってくるなんてもってのほか。朗らかに『こんばんは』と入ってくるのが粋なんですよ」
「それはお好きなものを……と言いたいけれど、まあボクのパターンをお教えしましょうか? まず体調が良く、エネルギーに満ちている時はドライマティーニ、何か良いことがあった時や気分を上げたい時はシャンパン、可もなく不可もない日はスコッチ&ソーダ、シャキッとしたい日はピンクジンソーダ。このほかに天候との兼ね合いもあって、暑い一日の終わりにはマルガリータが飲みたいし、寒い一日の終わりにはネグローニで温まりたいですね」
「ドライマティーニを」
(あ、今日は体調いいんだな、林センパイ)
「そのバーの名物をいくつかお教えするでしょうね。たとえば『ここはドライマティーニが美味しいですよ』とか、『(フルーツ系が飲みたいなら)オレンジが効いたバレンシアがいいんじゃない』というように」
やはり「シーガーディアンⅡ」の常連であるという藤竜也さんの話や、かつて常連だったという石原裕次郎さんの話まで出て、林さんと太田さんの話はとめどない。おふたり、いつもこんなにおしゃべりしているんですか?
「ぼくは一緒におしゃべりできないようなバーテンダーの店には行かない。つまり、バーテンダーとの会話がそれほど大切ということだよね。バーとか酒場は酒だけが目的じゃないでしょう。誰かと行くなら、その人と過ごすことが何よりの目的だし、ひとりで行くなら、バーテンダーやほかのお客さんとのお話も楽しい」
その時、何か気をつけることはあるんでしょうか。ホラ、よく政治と宗教の話はタブーだって言いますよね……。
と話していたら、グラスは空に。
「もうちょっと行きましょうか?」
おお、はしご酒。2軒目はどう決めればいいのでしょうか?
「ひとりで飲む時はバーテンダーで選びますね。その日、会いたい人のところへ。ふたり以上の時は、当り前ですが、1軒目と違う雰囲気の店で」
◆シーガーディアンⅡ
住所/神奈川県横浜市中区山下町10 ホテルニューグランド本館
予約・問い合わせ/045-681-1841
営業時間/17:00~23:00(LO 22:30)
定休/なし
「バー スリーマティーニ」
「『スリーマティーニ』は酒呑みによく知られた店。バーテンダー山下和男さんのレアなウイスキーのセレクションもすごいし、奥さま(この日は不在)のお料理もうまいんだ」
「それはティンキャップといって金属製のフタが付いたもの。60年代のジンなんですよ。今のものよりアルコール度数も高いんです」とは山下さん。ひええ、飲んでみたいけれど少し高そうですね。
え、なんかそれ少し恥ずかしくないですか?
「全然恥ずかしくないよ。それでイヤな顔をするバーテンダーのいるような店はこっちから願い下げなんだ。山下さんのようなバーテンダーならちゃんと心得て、きちんとしたものを出してくれます」
「そういえば少しお腹がすいたんじゃない? ぼくはこれから食事に行くから、あなたは軽く食べたら?」
「ここはお料理もすごく美味しくてね。食事代わりにいらっしゃる方もいますよ。でも、ぼくはバーでナイフやフォークを使って食事するのはちょっといただけないと思っているんです。サンドウィッチなら片手でつまめてスマートに見えるでしょう」
食事に出かけるという林センパイを見送り、店を出た。心地よさそうにスイスイと酒を飲む様に、こちらまでいいペースで飲んでしまったなぁ。自分がくつろぐことで、連れにも余計な気を遣わせず、場を明るくする、まさに達人のふるまいでありました。
◆バースリーマティーニ
住所/神奈川県横浜市中区山下町28 ライオンズプラザ山下公園
予約・問い合わせ/045-664-4833
営業時間/月17:00~24:00 (LO23:30)、火~金17:00~翌1:00 (LO24:30)、土14:00~翌1:00 (LO24:30)、日14:00~24:00(LO23:30)
不定休
*「いちばん安いスコッチ」は1000円~